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大阪高等裁判所 昭和40年(ネ)1229号 判決 1967年4月13日

主文

一、原判決中、被控訴会社の昭和三八年五月四日の臨時株主総会における清算人関口愛子を解任し、関口昌三を清算人に選任する旨の決議の不存在確認の請求を棄却し、同決議取消請求を却下した部分を取り消し、右部分を大阪地方裁判所に差し戻す。

二、原判決中右株主総会における関口久雄を監査役に選任する旨の決議の不存在確認の主位的請求を棄却し、同決議取消しの予備的請求を却下した部分に対する控訴を棄却する。

三、控訴費用中第二項に関する部分は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す。主位的に被控訴会社の昭和三八年五月四日の臨時株主総会における清算人関口愛子を解任し関口昌三を清算人に選任する旨の決議及び関口久雄を監査役に選任する旨の決議が存在しないことを確認する。予備的に右決議不存在確認の請求が認容されないときは、右決議を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする。」との判決を求め、被控訴会社代表者及び被控訴人関口昌三代理人は、それぞれ、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述ならびに証拠関係は、左記に附加するほか、原判決事実摘示と同一であるから、こゝに引用する。

控訴代理人の陳述

一、控訴人は、本件において、主位的に昭和三八年五月四日開催の臨時株主総会における決議不存在確認を求め、予備的に右請求が認容されないときは、右決議の取消しを求めるものであるが、昭和三八年五月四日開催の臨時株主総会は同日午後一時開催の臨時株主総会が一回あつたのみで、同日午後三時開催の臨時株主総会が一回あつたのみで、同日午後三時開催の臨時株主総会があつたわけではない。控訴人は、右決議不存在確認の訴を訴状に基づいて提起し、ついで右決議取消しの訴を予備的に追加するため、昭和三八年七月二五日、「請求の趣旨追加申立」と題する書面を原審に提出し、同日の原審口頭弁論期日において、右書面に基づき陳述したのであるが、右書面に「昭和三八年五月四日午後三時開催の臨時株主総会の決議はこれを取り消す」と記載したのは、株式会社変更登記申請書添付の議事録に右株式総会が昭和三八年五月四日午後三時開催された旨記載されていたからであつて、控訴人が訴状に基づき決議不存在確認を求めた決議も右「請求の趣旨追加申立」と題する書面に基づき決議の取消しを求めた決議も、いずれも昭和三八年五月四日午後一時現実に開備された臨時株主総会における決議である。控訴人は、昭和三八年五月四日午後一時開催の臨時株主総会とは別に同日午後三時開催の臨時株主総会があつたとして、右「請求の趣旨追加申立」と題する書面に基づき同日午後三時開催の臨時株主総会における決議の取消しを求めた趣旨ではない。したがつて、控訴人が昭和四〇年六月九日の原審口頭弁論期日において同年三月二四日付「請求の趣旨訂正の申立」と題する書面中の「昭和三八年五月四日午後三時の臨時株主総会」とあるうち「午後三時」を削除したのは、原裁判所の指示によるものであるが、既に追加した決議取消しの訴は、右削除によつて何ら効果に変更はなく、このとき始めて昭和三八年五月四日午後一時開催の臨時株主総会における決議取消しの請求がなされたと解されるべきではないから、前記「請求の趣旨追加申立」の提出により、右決議取消しの訴は商法二四八条一項所定の訴の提起期間内に提起されたものというべきである。

二、被控訴会社の清算人であつた控訴人は、株主関口伊三郎名義による清算人関口愛子解任、後任清算人選任及び監査役関口リノ死亡により欠員となつている監査役選任のための臨時株主総会招集の請求により、右を会議の目的とし、日時昭和三八年五月四日午後一時、場所大阪市西成区山王町一丁目一四番地関口愛子方とする臨時株主総会の招集手続をなし、昭和三八年五月四日午後一時前記関口愛子方において、控訴人が被控訴会社の清算人として議長席につき臨時株主総会を開催した。当時被控訴会社の発行済株式総数は一万株であつて、株主は、関口伊三郎四、八三三株六分の二、関口喜美子一、八三三株六分の二、関口ハナ、関口フジ、関口愛子(控訴人)、関口尚子各八三三株六分の二であつた。当日右総会に出席したものは、関口フジ、関口ハナ、控訴人、関口尚子及び被控訴人関口昌三の五名であるが、被控訴人関口昌三は株主関口喜美子の持株のうち一、五〇〇株について大阪簡易裁判所が昭和三八年五月二日発した議決権行使許容の仮処分決定に基づいて出席し、かつ、持株四、八三三株六分の二の株主関口伊三郎の代理人として出席した。しかし、

(一)  被控訴人関口昌三は株主関口喜美子の持株のうち一、五〇〇株を譲り受けたとして大阪簡易裁判所から前記議決権行使許容の仮処分決定を得たのであるが、被控訴会社は現在に至るまで株券を発行していないから、株券発行前になした株式の譲渡はその効力を生じないものであり(商法二〇四条二項)、また、記名株式の移転は取得者の氏名及び住所を株主名簿に記載するのでなければ会社に対抗することができないところ(商法二〇六条一項)、被控訴会社の株主名簿には被控訴人関口昌三が関口喜美子より株式を譲り受けた事実が記載されていない。したがつて、被控訴人関口昌三は裁判所を欺罔して前記仮処分決定を得たものと考えられるが、いずれにしろ被控訴人関口昌三は前記株式一、五〇〇株について株主としてその議決権を行使することはできない。

(二)  被控訴人関口昌三は、前記株主総会において、株主関口伊三郎名義の委任状を持参し、同人の代理人としてその株式の議決権を行使しようとしたが、被控訴会社の定款には、株主総会では被控訴会社の株主でなければ株主の代理人となることができない旨規定せられてあり、被控訴人関口昌三は被控訴会社の株主ではないから、被控訴人関口昌三は株主関口伊三郎の代理人としてその株式の議決権を行使することはできない。もつとも、被控訴人関口昌三は、前記仮処分決定により前記株式一、五〇〇株について、その議決権の行使が許容されてはいるが、右仮処分決定は株主関口伊三郎の代理人としてその議決権の行使までも許容した趣旨でないことは仮処分の文言に徴して明らかであり、前記被控訴会社の定款はかかる仮処分決定を得た者までも被控訴会社の株主として株主の代理人となることを許容した趣旨ではない。

したがつて、被控訴人関口昌三は、前記株式一、五〇〇株についても、また、株主関口伊三郎の代理人としても、議決権を行使することはできないわけであるが、控訴人は、前記臨時株主総会における議長として、被控訴人関口昌三が前記一、五〇〇株の議決権を行使することを認めて議事を進行し、まず、清算人関口愛子解任について出席株主の賛否を求めたところ、被控訴人関口昌三は解任に賛成したが(この株式数一、五〇〇株)、株主関口ハナ、関口フジ、関口尚子及び控訴人が解任に反対したので(この株式数三、三三三株六分の二)、控訴人は否決と採決した。ついで控訴人は監査役選任について出席株主の意見を求めたところ、株主関口尚子は関口ハナ選任の発議をなし、被控訴人関口昌三は関口久雄選任の発議をなしたので、その賛否を求めたのであるが、前者について株主関口ハナ、同関口フジ及び控訴人が賛成したので、控訴人は前者が多数であるとして関口ハナを監査役に選任することに採決した。以上の次第で昭和三八年五月四日午後一時開催の臨時株主総会においては、清算人関口愛子を解任し関口昌三を清算人に選任する旨の決議及び関口久雄を監査役に選任する旨の決議は存在しない。

被控訴会社代表者及び被控訴人関口昌三代理人の陳述

昭和三八年五月四日開催の臨時株主総会は同日午後一時開催の臨時株主総会が一回あつたのみで、同日午後三時開催の臨時株主総会があつたものではない。臨時株主総会議事録(甲第四号証の二)には同日午後三時臨時株主総会が開催された旨記載されているが、右は同日午後三時議事が終了し、決議が成立した趣旨である。

被控訴人関口昌三代理人の陳述

一、被控訴人関口昌三は、控訴人と被控訴会社間の訴訟に民訴法七一条前段の規定による参加の申出をなしたものであるが、民訴法七一条前段の規定による参加は、他人間の訴訟係属中その訴訟の結果によつて権利が侵害されることのあるべき第三者が独立して当該訴訟に参加する制度であつて、参加の要件として、必ずしも現実に馴合訴訟をしているか、またはする虞れがあるということまでを必要とするものではないのである。被控訴人関口昌三は、被控訴会社の昭和三八年五月四日開催の臨時株主総会において清算人に選任されたのであるが、職務執行を停止された被控訴人関口昌三と被控訴会社の代表者職務執行者との間には、何らの法律上の関係は存せず、したがつて、被控訴人関口昌三は被控訴会社の代表者職務代行者を通じて自らの権利を擁護すべきつながりは全くたちきられているのである。したがつて、被控訴会社の代表者職務代行者が馴合訴訟をするか否か、その意図如何にかからわず、場合によつては当該訴訟の相手方とその見解が一致することがありうるのは当然であるから、被控訴会社の代表者職務代行者が馴合訴訟をすることがありえないとしても、被控訴人関口昌三の権利が害されることがありうるのである。本件において、被控訴人関口昌三は民訴法七一条前段の規定による独立当事者参加が許されるものと信ずる。

二、控訴人は、被控訴会社が現在に至るまで株券を発行しないから、株券発行前の株式譲渡は会社に対し効力を生ぜず、したがつて、被控訴人関口昌三の株式取得は認められないと主張する。しかし、控訴人の右主張事実は事実に反する。被控訴会社は、昭和二一年五月頃、代表取締役関口伊三郎が株券を発行し、株主名簿上の株主名義人の承諾を得て自ら保管していたところ、当時余りにも粗末な用紙であつたので、昭和三二年七月六日、新たに株券を印刷し直したものである。ところで被控訴会社の代表者であつた控訴人は、従来から株主関口伊三郎が主張する株券発行の事実を否認しながら、しかも同人に株式譲渡を禁ずる目的で、法に違反して故意に株券を発行せず(もし、控訴人が株券未発行なりというのであれば、商法二二六条一項により遅滞なく株券を発行することを要する)、商法二〇四条により保障された株式の譲渡性を脱法的に奪おうとしたのである。したがつて、仮に昭和二一年五月頃の株券発行が認められないとしても、昭和三二年七月六日、当時被控訴会社の代表者であつた関口伊三郎が印刷し、発行した前記株券は商法上株券発行として有効であり、控訴人はこれを承認せざるを得ないのである。

証拠関係(省略)

理由

一、被控訴人関口昌三の民訴法七一条による参加について

本件は、控訴人が被控訴会社に対し、被控訴会社の昭和三八年五月四日午後一時開催の臨時株主総会における清算人関口愛子を解任し、関口昌三を清算人に選任する旨の決議及び関口久雄を監査役に選任する旨の決議について、主位的に右各決議の不存在確認を求め、予備的に右各決議の取消しを求める訴訟であること、被控訴人関口昌三は、原審で、民訴法七一条前段の規定により本件訴訟に参加する旨の申出をしたものであることは、記録上、明らかである。そして、法律の規定により他人間の判決の効力が第三者に及ぶ場合、訴訟の結果権利が害されるその第三者が同条前段の規定により他人間の訴訟に参加することが許されることは同条の規定に照らし明らかである。ところで、本件のような株主総会決議不存在確認の訴における判決も商法二五二条の規定に照らし対世的効力が認められるのであり(最高裁昭和三八年八月八日第一小法廷判決、民集一七巻六号八二三頁)、本件株主総会決議取消しの訴における判決は、もとより、商法二五三条一項の規定により対世的効力が認められるのであるから、本件訴訟の対象たる株主総会決議により清算人に選任された被控訴人関口昌三は、訴訟の結果に因り権利が害されるときは、民訴法七一条前段の規定に基づき当事者として本件訴訟に参加することができるわけであるが、本件株主総会における関口久雄を監査役に選任する旨の決議については、被控訴人関口昌三は、単にその訴訟の結果について利害関係を有するにすぎないから、右決議に対する関係においては、民訴法六四条の補助参加人たる地位を有するにすぎないものである。

二、株主総会決議不存在確認の主位的請求について

被控訴会社が昭和二年二月二六日設立された発行済株式総数一万株の株式会社であること、被控訴会社が昭和二四年一一月二八日解散し、関口伊三郎が清算人に就任したが、昭和三二年七月七日、同人が解任され、控訴人が清算人に就任したこと、控訴人は被控訴会社の清算人として、被控訴会社の株主関口伊三郎の請求により、被控訴会社の各株主に対し、昭和三八年四月一七日付書面で、同年五月四日午後一時、大阪市西成区山王町一丁目一四番地の控訴人方において、清算人である控訴人を解任し後任清算人を選任する件及び欠員監査役を選任する件を議案とする被控訴会社の臨時株主総会を開催する旨の招集通知をなし、同日定刻株主総会が開催されたこと、被控訴会社の登記簿には、昭和三八年五月六日付で、被控訴会社の昭和三八年五月四日開催の臨時株主総会において、清算人関口愛子を解任し、関口昌三を清算人に再任する旨の決議及び関口久雄を監査役に選任する旨の決議がなされたとし、その旨の登記がなされていること、以上の事実は当事者間に争いがない。

そこで、被控訴会社の昭和三八年五月四日午後一時開催の臨時株主総会における議事進行及び決議成立に至るまでの過程について検討する。

被控訴会社の株主名簿上の株主は、関口伊三郎四、五〇〇株、関口フジ五〇〇株、関口ハナ五〇〇株、控訴人五〇〇株、関口尚子五〇〇株、関口喜美子一、五〇〇株、関口リノ二、〇〇〇株となつているが、関口リノは昭和三八年二月七日死亡したこと、当日、右臨時株主総会に出席した者は、関口フジ、関口ハナ、控訴人、関口尚子及び被控訴人関口昌三の五名であつたこと、被控訴人関口昌三は、関口喜美子名義の株式について、申請人を被控訴人関口昌三とし、被申請人を関口喜美子及び被控訴会社とする大阪簡易裁判所昭和三八年(ト)第一七六号仮処分決定を得て右総会に出席したが、右仮処分決定は「被申請人関口喜美子は被申請人名義の別紙目録記載の株式について昭和三八年五月四日午後一時に召集された株主総会において株主としての権利を行使してはならない。申請人は別紙目録記載の株式について、右株主総会に出席して株主としての権利を行使することができる。被申請人株式会社関口本店は右株主総会において別紙目録記載の株式について申請人が株主としての権利を行使することを許さなければならない。」、別紙目録の記載「一、株式会社関口本店株式一、五〇〇株、内訳、百株券一五枚、自No.四六至No.六〇(但し、一株の金額一〇〇円、四〇円払込済)」というものであること、株主関口伊三郎は右総会の議決権行使に関して、清算人である控訴人の議決権代理行使の勧誘に基づき、控訴人に議決権の代理行使を委任していたが、控訴人はその受任を拒絶したこと、そこで関口伊三郎はかような事態の発生にそなえて控訴人が拒絶した場合の代理行使を被控訴人関口昌三に委任していたので、被控訴人関口昌三は右総会で株主関口伊三郎の議決権を代理行使する旨申し入れたところ、控訴人はこれを認めないと主張したこと、被控訴会社には議決権行使の代理人を株主に限定する定款の規定があること、以上の事実は当事者間に争いがない。そして、成立に争いのない甲第二号証、原審証人鈴木八郎、同門本治の各証言及び原審における控訴人及び被控訴人関口昌三各本人尋問の結果を総合すると次の事実が認められる。本件株主総会は株主関口伊三郎の代理人資格をめぐつて被控訴人関口昌三と他の出席者とが対立し、双方譲らず、対立したままで手続が進行しなかつたが、被控訴人関口昌三の発言主張を議事録に記載することで妥協が成立し、控訴人が議長となつて議事が進められた。控訴人は出席株主は関口フジ八三三株六分の二、関口ハナ八三三株六分の二、控訴人八三三株六分の二、関口尚子八三三株六分の二、被控訴人関口昌三一、八三三株六分の二(株主関口喜美子名義)の五名であつて、その株式総数は五、一六五株(五、一六六株六分の四の誤算)であるとして総会の成立を宣し、被控訴人関口昌三は、株式総数は六、二八五株七分の五(前記議決権行使許容の仮処分決定に基づく株式一、五〇〇株及び株主関口伊三郎名義の株式四、七八五株七分の五の合計)であると主張した。ついで、第一号議案清算人解任及び後任清算人選任の件が上程され、採決の結果、被控訴人関口昌三は解任に賛成、その他の四名は反対の意思表示をしたので、控訴人は賛成の株数一、五〇〇株、反対の株数三、三三三株六分の二で否決を宣したが、被控訴人関口昌三は、賛成の株数六、二八五株七分の五であるから、解任の決議が成立したのであり、議長は後任清算人に被控訴人関口昌三を選任する旨宣すべきであると主張した。さらに、第二号議案欠員監査役選任の件が上程され、被控訴人関口昌三は関口久雄を選任するとし、その他の四名は関口ハナを選任するとしたので、控訴人は、関口ハナ選任に賛成の株数三、三三三株六分の二、反対一、五〇〇株、関口久雄選任に賛成の株数一、五〇〇株、反対三、三三三株六分の二と宣し、被控訴人関口昌三は、関口ハナ選任に反対の株数と関口久雄選任に賛成の株数は六、二八五株七分の五であると主張した。以上の事実が認められる。被控訴人関口昌三は、被控訴会社の全株式が関口伊三郎の所有に属するとし、同人の意思表示により本件株主総会の決議が成立したと主張するが、右主張事実に符合する原審における被控訴人関口昌三本人尋問の結果はたやすく信用することができず、他に右主張事実を認めて、前記認定事実を覆えすにたりる証拠はない。

ところで、株主総会の決議は、定款に別段の定めがない限り、出席株主が明認しうる方法でなした表決の結果、会議の目的となる議案に対する賛成または反対がその議決権の可決数に達することが明らかとなつた時に成立するのであつて、議長が採決し、ないしはその結果を宣言することは必ずしもこれを必要としないのである。そして、記名株主がその議決権を行使するためには、株主名簿の記載によつて株主たる資格が認められなければならないのであつて(商法二〇六条一項)、その株主の持株数にしたがつてその議決権の数についても、株主名簿の記載が基準となるのであり、株主名簿上の株主の相続人といえども、名義書換を経ない以上、当然にはその議決権を行使することは許されないのである。いま、これを本件についてみると、前記認定事実によれば、本件株主総会に出席した株主は、前記仮処分決定に基づき自ら株式一、五〇〇株(株主名簿上関口喜美子名義)の議決権を行使し、かつ、関口伊三郎(株主名簿上四、五〇〇株)の代理人としてその株式の議決権を行使するため出席した被控訴人関口昌三のほか、関口フジ(株主名簿上五〇〇株)、関口ハナ(株主名簿上五〇〇株)、控訴人(株主名簿上五〇〇株)、関口尚子(株主名簿上五〇〇株)の五名であつて、被控訴会社の発行済株式総数一万株の過半数に当たる株式を有する株主が出席したものというべく、右各出席株主はそれぞれ各議案に対して明認しうる方法で表決をなし、その結果被控訴人関口昌三の行使した議決権の総数が合計六、〇〇〇株であつて、各議案に対しそれぞれ可決数に達したものというべきであるから、清算人関口愛子を解任し関口昌三を清算人に選任する旨の決議及び関口久雄を監査役に選任する旨の決議は成立したものと認められる。控訴人は、(1)被控訴人関口昌三は株主関口喜美子の持株のうち一、五〇〇株を譲り受けたとして前記仮処分決定を得たのであるが、被控訴会社は現在に至るまで株券を発行していないから、株券発行前にした株式の譲渡はその効力を生ぜず(商法二〇四条二項)、また、記名株式の移転は取得者の氏名及び住所を株主名簿に記載するのでなければ会社に対抗することができないところ(商法二〇六条一項)、被控訴会社の株主名簿には被控訴人関口昌三が関口喜美子より株式を譲り受けた旨記載されていないから、被控訴人関口昌三は前記株式一、五〇〇株の議決権を行使できない旨、(2)被控訴会社の定款には株主総会では被控訴会社の株主でなければ株主の代理人となることができない旨規定せられているところ、被控訴人関口昌三は被控訴会社の株主ではないから、株主関口伊三郎の代理人としてその議決権を行使できない旨各主張する。しかし(1)については、被控訴人関口昌三は前記仮処分により議決権行使を許容されていたものであつて右仮処分決定が当初から不適法または理由のない申請に基づいて発せられた場合でも、当然に無効ではなく、この議決権行使許容の仮処分決定を得た者が株主総会に出席して議決権を行使した後に、その者が本案訴訟で敗訴した場合、あるいはその仮処分決定が異議または上訴により不当として取り消された場合でも、その株主総会の決議の効力には何らの影響はないと解すべきであるから、右主張は理由がない。(2)については、被控訴会社の定款には議決権行使の代理人を株主に限定する旨の規定が存することは当事者間に争いがないところ、右のような定款の規定は、株主総会が株主以外の第三者により攪乱されるのを防止し、会社の利益を保護しようとする趣旨に出たものであるから、商法二三九条三項の規定にかかわらず有効と解すべきであるが、同条が株主の利益のために設けられた強行規定であることにかんがみ、右定款の規定は株主の議決権の代理行使を株主名簿上の株主に限定し、本件のような議決権行使許容の仮処分決定を得た者までも排除した趣旨ではないと解するのが相当であるから、右主張も理由がない。

そうすると、控訴人が株主総会決議不存在確認を求める主位的請求は、以上の理由により失当として棄却すべきである。

三、株主総会決議取消しの予備的請求について

原判決は「原告は、請求の趣旨において株主総会開催の時刻を記載していないが、この二次的請求は、一次的請求が却けられた場合、その判断に際し存在したものと認定された決議の取消しを求めるものと解せられる。ところが原告は、二次的請求の対象を、当初午後三時開催の株主総会の決議と明記し、ついで昭和四〇年六月九日の口頭弁論期日において、「午後三時」の字句を削除したことが記録上明らかであるから、午後一時開催の株主総会の決議の取消請求は、このとき始めてなされたものと見るべきであり、従つて、商法第二四八条第一項の期間経過のため失当というべきである。」として、控訴人の株主総会決議取消しの予備的請求を不適法として却下した。

しかしながら、控訴人の株主総会決議取消しの予備的請求を商法第二四八条一項の期間経過のため失当として却下した原判決は関口久雄を監査役に選任する旨の決議に関する部分は相当であるが、清算人関口愛子を解任し、関口昌三を清算人に選任する旨の決議に関する部分は相当ではない。すなわち、被控訴人関口昌三が成立を認めているので全部真正に成立したものと認めうる甲第四号証の一、成立に争いのない甲第四号証の二によれば、被控訴会社の清算人として被控訴人関口昌三が、昭和三八年五月六日、被控訴会社の清算人関口愛子の解任、被控訴人関口昌三の清算人就任及び関口久雄の監査役就任について、株式会社変更登記の申請をなすため、同日、大阪法務局に提出した右変更登記申請書(甲第四号証の一)添付の臨時株主総会議事録(甲第四号証の二)には、被控訴会社の昭和三八年五月四日開催の臨時株主総会が同日午後三時開催された旨記載されていることが認められるが、昭和三八年五月四日開催の臨時株主総会は同日午後一時開催の臨時株主総会が一回あつたのみで、同日午後三時開催の臨時株主総会があつたわけでないことは当事者間に争いがない。ところで、本件記録によれば、控訴人は、昭和三八年五月二〇日、被控訴会社の昭和三八年五月四日開催の臨時株主総会における清算人関口愛子を解任し、関口昌三を清算人に選任する旨の決議及び関口久雄を監査役に選任する旨の決議は、同日午後一時開催の臨時株主総会としても、また、同日午後三時開催の臨時株主総会としても、成立していないとして、右決議不存在確認を求めるため、請求の趣旨として「関口昌三を被告会社の清算人に選任する旨の被告会社の昭和三八年五月四日招集臨時株主総会の決議は存在しないことを確認する」と記載した訴状を原審に提出し、ついで右請求が認容されないときは、存在するとされた右決議の取消しを予備的に請求するため、同年七月二五日、請求の趣旨として「関口昌三を被告会社の清算人に選任する旨の被告会社の昭和三八年五月四日午後三時開催の臨時株主総会の決議はこれを取消す」と記載した「請求の趣旨追加申立」と題する書面を原審に提出し、同日の原審口頭弁論期日において、訴状及び右「請求の趣旨追加申立」と題する書面に基づき陳述したこと、控訴人は、昭和四〇年三月二四日、請求の趣旨として主位的に「被告会社の昭和三八年五月四日午後三時の臨時株主総会における清算人関口愛子を解任し関口昌三を清算人に選任する旨の決議及び関口久雄を監査役に選任する旨の決議はともに存在しないことを確認する」、予備的に「被告会社の昭和三八年五月四日午後三時の臨時株主総会における清算人関口愛子を解任し関口昌三を清算人に選任する旨の決議及び関口久雄を監査役に選任する旨の決議はこれを取消す」と記載した「請求の趣旨訂正の申立」と題する書面を原審に提出し、同年五月一二日の原審口頭弁論期日において、右「請求の趣旨訂正の申立」と題する書面に基づき陳述し、ついで同年六月九日の原審口頭弁論期日において、右「請求の趣旨訂正の申立書」と題する書面中、主位的請求及び予備請求とも、その「午後三時」と記載されている部分を削除する旨陳述したことが明らかである。そうすると、控訴人は、昭和三八年五月二〇日、被控訴会社の昭和三八年五月四日開催の臨時株主総会における決議は、同日午後一時開催の臨時株主総会としても、また、同日午後三時開催の臨時株主総会としても、成立していないとして、右臨時株主総会における清算人関口愛子を解任し、関口昌三を清算人に選任する旨の決議の不存在確認の訴を提起し、ついで右請求が認容されないときは、存在するとされた右決議の取消しを予備的に請求するため、同年七月二五日、右決議の取消しの訴を追加提起したものであつて、前記「請求の趣旨追加申立」と題する書面の請求の趣旨として「昭和三八年五月四日午後三時開催の臨時株主総会」と記載されてある部分は、その記載の文言にかかわらず、昭和三八年五月四日午後一時現実に開催された臨時株主総会の決議を対象とするものと解するのが相当である。もつとも、右臨時株主総会における関口久雄を監査役に選任する旨の決議の不存在確認の訴と右決議の取消しの訴は、前記「請求の趣旨訂正の申立」と題する書面の提出により、このとき初めて提起されたものであることは明らかである。したがつて、控訴人の昭和三八年五月四日開催の臨時株主総会における決議の取消しを求める訴は、清算人関口愛子を解任し、関口昌三を清算人に選任する旨の決議に関する部分については、前記「請求の趣旨追加申立」と題する書面の提出により、商法二四八条一項所定の訴の提起期間内に提起されたものというべく、前記「請求の趣旨訂正の申立」と題する書面中の「午後三時」の字句を削除した昭和四〇年六月九日の原審口頭弁論期日において、右削除により始めて右決議取消しの訴が提起されたとする原判決は相当でないが、関口久雄を監査役に選任する旨の決議に関する部分については商法二四八条一項所定の訴の提起期間経過後に提起されたものであること明らかであるから、これを却下した原判決は相当である。その他本件記録を精査しても訴訟要件の欠缺を理由として本件株主総会決議取消しの訴のうち清算人関口愛子を解任し、関口昌三を選任する旨の決議に関する部分を却下すべき事由は見当たらない。

四、むすび

(一)  清算人関口愛子を解任し、関口昌三を選任する旨の決議に対する訴について

本件は、被控訴会社の昭和三八年五月四日開催の臨時株主総会における決議のうち清算人関口愛子を解任し、関口昌三を選任する旨の決議について、主位的に右決議の不存在確認を求め、右請求が認容されることを解除条件として、予備的に右決議の取消しを求めるものであるから、主位的請求を棄却する場合には、同時に予備的請求についての裁判も必要とするのである。この場合主位的請求を予備的請求から分離して一部判決として、原審の請求棄却の裁判を維持する控訴棄却の裁判がなしうるのであれば、予備的請求については訴を不適法として却下した原判決を取り消す場合であるから、この予備的請求部分のみを原審に差し戻すことが許されるわけであるが、このような措置をするときは、主位的請求と予備的請求が上訴の関係で別々となり、控訴人が両請求について統一的な判断が与えられることを期待して併合提起した趣旨が没却されることとなつて不当である。したがつて、本件のように株主総会決議不存在確認を求める主位的請求に右決議の取消しを求める予備的請求が併合された訴訟においては、主位的請求を棄却する裁判をするときは、同時に予備的請求についても裁判をすることを要し、主位的請求を予備的請求から分離して一部判決することは許されないものと解するのが相当であるから、予備的請求を原審に差し戻すべき場合には、両請求全部を原審に差し戻すべきものと解する。

(二)  関口久雄を監査役に選任する旨の決議に対する訴について

本件は被控訴会社の昭和三八年五月四日開催の臨時株主総会における決議のうち関口久雄を監査役に選する旨の決議について、主位的に右決議の不存在確認を求め、予備的に右決議の取消しを求めるものであるが、主位的請求を棄却し、予備的請求を却下した原判決は相当である。

よつて、前記(一)については民訴法三八八条を適用し、前記(二)については同法三八四条一項、九五条、九二条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

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